She comes back ~鈴木亜美「強いキズナ」

画像
 鈴木亜美がついにCDを出した。
 所属事務所やレコード会社とのトラブルで活動休止に追い込まれて約3年半。おととしの夏と去年の秋に写真集やDVDは出したものの、新曲のCDは、2000年9月リリースのシングル“Reality”以来になる。
 もともとこのCDはちょうど1年前にレコーディングされていて、すぐ発売になる予定だったものが、当時裁判で係争中のレコード会社が控訴したためダメになったという経緯があって、昨年末に和解が成立したことで晴れて発売となったようだ。とは言え、マイナスイメージを嫌って獲得に乗り出すレコード会社は未だにない。写真集を出した文藝春秋社から、CD付きミニ写真集としてリリースされることになった。書籍の流通ルートに乗って書店を中心に発売される(ので、売り上げランキングもCDセールスではなくてベストセラーの方に出るらしい)というちょっとイレギュラーな形ではあるが、とりあえず、彼女自身にとっていちばん大切であるという音楽を世に送り出すことができたのだ。

 自ら詞を書いた「強いキズナ」は、「みんなから届けられたたくさんの応援メールに励まされて強い衝撃を受けたとき、この感動をそのまま言葉に代えたいと、その時の気持ちを一気に書いたもの」だそうだ。

  こんなにも偉大な力
  きっと あのまま過ごしていたら
  気付かずにいただろう

  形の無いキズナは
  一人 そしてまた一人
  つなげていく
  つなげていく

  溢れ出した強いキズナは
  殻に閉じこもった一人の少女の
  孤独を破り 不安を溶かし
  笑顔までも生き返らせた

  誰かが待っている
  皆が待っている そのわけは
  誰かの中にある 皆の中にある
  貴方の為にある 私の為にある


 例えば宇多田ヒカルの、人が人として生きることそのものを語るような普遍性や、初期の浜崎あゆみの、終わりのない悲しみをぶつけてくるような衝撃は、この詞にはない。全てを見失ないかけたひとりの女の子が、自分を支えてくれていた大きな力の存在に気づいて再生して行くという、彼女自身の経験が正直過ぎるくらい正直に綴られているだけだ。
 “キズナ”を感じさせてくれた人々への感謝の思いと、再出発への決意を表わしたこの詞は、きわめてパーソナルなものであるにもかかわらず、かつてアイドル時代に歌っていた何を言ってるのかわからない薄っぺらな言葉よりも、はるかに説得力がある。本名の亜美に改名したのも、何かが違うと思いつつも誰かの後ろについていくだけだったアイドル「鈴木あみ」の虚像を捨てて、本当の自分を表現し、本当に自分のやりたいものを作って行きたいという気持ちが込められている。
 その気持ちに応えるかのような優しくも力強いメロディーは横山輝一作曲。“Lovin' You”というヒット曲を覚えている人がどれくらいいるだろうか?らっびにゅ~♪っていうサビのメロディが印象的だった(文字じゃわからんな)。調べてみるともう11年も前の曲だった。
 休業中はボイストレーニングなんかもやっていたそうで、以前よりはるかに伸びのある声が出ている。正直上手いとは言えないけど、無理なく素直に歌っていると思う。自分の詞だから気持ちも入って行くのだろう。詞とメロディーとヴォーカルがちゃんとかみ合ってるって感じ。音域狭いのに高いキーの歌を無理矢理歌わされていた以前とはここも違う。
 「今までで最高の曲になるという確信だけはあった」「今までためてきたものは出し切れた」「一生忘れられない歌」と彼女自身が語っているように、いい形でのリスタートが切れたのではないだろうか。

 写真集に収められている小文やインタビューの中で、彼女は「時間」というものをすごく意識している。休業中の3年半という時間。決して短くはない時間だ。18歳から22歳へ。そうでなくても劇的に人生が変わるこの時期に、彼女は普通に生きている女の子なら経験することのない様々なことを経験してきた。そんな全てを、いいことも悪いこともあくまで前向きに受け止めて、自分は成長しているのだととらえている。逆境は人間を強くするようだ。記者会見での彼女は、受け答えもしっかりしていて、確かに大人になっていた。そしてその笑顔には、苦難を経て今自分は自分のいたい場所、いるべき場所に立っているんだという喜びも感じられた。
 とは言うものの、この先の具体的なことは何ひとつ決まっていない。先にも言ったようにレコード会社は相変わらずそっぽを向いた状態だし、マネージャーの兄と2人だけの個人事務所では、どこへ切り込んでいくにしても大変だろう。完全復活は、まだ少し先の話のようだ。
 実を言うとアイドル時代の「鈴木あみ」は、そんなに好きではなかった。でも、テレビに出てると何だか見てしまう。そういう人をひきつける力は確かにあった。それが作られたイメージだったのか、彼女自身が持っている資質なのか。アーティスト(アイドルではなく)鈴木亜美の真価が問われるのは、これからだろう。

 ここまでにもさんざん引用しているのだが、写真集巻末のインタビューからもうひとつ。
 あのままアイドルとして生きていたらすごくわがままになっていただろう、(休業したことによって)普通に過ごせるようになってよかった、と彼女は言い、それに続けてこんなことを言っている。
 「普通の生活の延長線上に音楽があるのが理想だから。ほんとに気を遣わず、そのままの自分が音楽に影響すればいいなと思ってる。(中略)普通に暮らすということを基本に、そこから楽しいことをしていきたい。」
 「音楽」を「芝居」に換えると、図らずも僕自身の芝居に対する考え方そのままになることにちょっとびっくりした。一気に応援モード加速だな。

 「ポスト鈴木あみ」と言われた3人―松浦亜弥は、アイドルあややのイメージをキープすることに必死で人気も失速し始め、上戸彩は歌もドラマももひとつパッとせず停滞気味で、SAYAKAはやはり母親が偉大過ぎて結局未だに親の七光りでしか生きられない。そんな時期に復活してきたことも、何か意味のあることなのかもしれない。とりあえず、今後の動向を気にしていきたいと思っている。

 公式HP : http://www.ami-suzuki.com/

"She comes back ~鈴木亜美「強いキズナ」" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント